エレクトラ
2003年9月6日〜9月30日 Bunkamuraシアターコクーン

何度もわいては消えた岡田さん舞台のウワサ。今度もどーせと思ってたら・・・
世界のニナガワ、相対するは大竹しのぶ様、相手にとって不足なし・・・てか大丈夫かよほんとに。
と、期待と不安に揺れる1ヵ月間のはじまりはじまり

9月25日(木) ソワレ、9月27日(土) マチネ、ソワレ

友達にはさんざんきいてもらった話なのですが。感想を書きそびれた14日を含めてエレクトラ3回見たところで思ったこと。
オレステスには理由というかここに到るまでの積み上げが無いなあということ。エレクトラはひたすら憎いのよで生きてるし、クリュタイムネストラには夫を殺す理由があったものの、今まで不安にさいなまされながら生きてきてるし、クリュソテミスも自分はどうすべきかを懸命に考え続けているし。というのに比べてオレステスにはそれだけのものが無いなあと。何でお母さんを殺さなければならないのかオレステス君の中ではどういう決着がついているんだろう。難しいよね。ちゃんとギリシャ悲劇の世界のお約束事項だの人間(神様?)関係だのを理解していれば違うのかもしれないけど。当然のように故郷へ帰ってきて当然のようにあだ討ちを行うなんてそれを当然のことだと見る側に納得させるなんて、岡田さんには荷が重かったよね。それだけのことをしなくちゃならないにしては、何せあの物言いでガクっとなっちゃうし。
実は、何より私が不満だったのが、故郷に足を踏み入れた時の岡田さんの表情でした。こどもの頃以来初めての故郷の地を踏むと言うのに、何であんな苦悶の表情なんだろう。最初の場面のオレステスくんがどーもうまくいってないのは台詞のせいだけじゃないと思うんだよなー。

などと思いつつ約10日ぶりのエレクトラ。岡田の表情が変わっていたよ。夢にもみたであろう故郷の地を踏むことの出来る嬉しさ、これから成し遂げなければならないことに対する畏れそんなものがとてもよく分かるようになっていた。端っこにうずくまり、そして顔を上げたときのまったく違うまさに王子の表情。これはいけるんじゃないー?発声もだいぶマシになってたし。と、かなり安心して最初のシーンを見ることが出来るようになったのがとても嬉しい。

25日の大竹エレクトラはとにかく怒っている感じ。早口でイライラと叫びまくり、コロスの言うことなんてまるで聞いちゃいない。おかげで女性対決も迫力ありましたね。
それに比べて27日に見たときは、もう抵抗する生活が長くなりすぎ、気弱になっている感じのエレクトラ。もう私は疲れてしまったのって風。オレステスが死んでしまったと聞かされてからなど今すぐにでも死んでしまいそう。クリュソテミスに二人でやりましょうと言うのも25日のエレクトラは今すぐにでも寝首を掻きかねない勢いなのに対して、27日のエレクトラは自分を奮い立たせるためだけに言ってるように見えました。どっちが良いとかというものでもなくね。

もー毎回楽しみで楽しみでしょうがないママとの対決シーン。まま好きだー好きだー。登場シーンのヤクザの姐さんかみたいな無頼ぶりがかっこいいよう。マントを翻すとこが孔雀みたいだー。でもってオレステスの死を聞いたときの目を向くとこなんかもう大好きだー。退場のとこでほんと拍手したいんですよ、私。

エレクトラと再会してからのオレステス。13日に見たとき、何かほんのちょっとだけですが大竹姉さんをリードしてみようなーんて意気込みが見られておやおやと思ってたんですが、更に立派になってくれたような気がするのは、多分最初のシーンがそれなりになって来たからかしらね。もうただのひいき目なのはよーく分かってますが。
27日マチネの再会シーンでは骨壷をオレステスのだと信じて離そうとしないエレクトラに本気で吹っ飛ばされるオレステス。軽すぎ(笑)。帽子もぶっ飛んで慌てて帽子をかぶり直す(まだ素顔みせちゃいけない場面なので)岡田さんが可愛らしゅうございました。
そう言えば、もみあった後骨壷の骨をぶちまけてしまう訳ですが、その場所が前半見たときは下手寄りだったのが舞台中央に変更になったんですかね。今までと違うところに骨壷が転がっちゃうもんで、25日の時は、岡田さん途中で思いっきり蹴り飛ばしてしまったり。中から人が出てきた時、猛スピードで壷を拾いに行くピュラデス君とかエレクトラが蓋を拾ってきてピュラデス君に渡したりとか何かおかしいことになってます。また、ぶちまけた骨(のかけら)はカーテンコールまでそのままなもので、あいさつに出てきた役者さん達が踏むのはちゅうちょして骨の手前であいさつしてるところをがっしがっし踏んで前に出てきちゃう岡田とか。うずくまって骨(もう粉)を寄せる大竹さんとか。色々楽しゅうございましたよ。

少しは台詞が聞けるようになったのは言ってみれば対処療法な訳で、抜本的に発声を学んでもらわないとこれから厳しいだろうなーとか、まだまだ言いたいことはもちろんありますがね。ようやく岡田なりのオレステスが出来てきたのかなーなんてことが感じられてホッとしましたの。それだけでいいやーと思えてしまうあたりまだまだ甘いファンでございます。(03/09/29)

9月11日(木) マチネ公演

エレクトラ始まってから初めての休演日を経ての公演。まあ岡田さんはレギュラー番組の撮りとかあっただろうからオフってな訳にはいかないんだろうけど。

さて、初日見てもうどーしようかと思った冒頭の場面。我らが岡田さんが今日までの4公演をただ回数こなしてるなんてことがある訳なく、色々工夫の跡が見られます。子音を強調することで聞き取りやすくしようだとか、台詞の速さを若干変えてみたりだとかね。相当ひいき目ですが若干は聞けるようになったように思います。もちろんまだまだですけどもね。ええもう、岡田さんに関してはこちらもそれだけのもん捧げておりますので言いたいこと言わせてもらいますわよ。ほほ。
とりあえず少しはホッとしたところでしのぶ様登場。
しのぶ様舞台を見るのは去年の「売り言葉」「マクベス」今年の「奇跡の人」とこれで4本目なんですが、彼女は気の強いというか我の強いお嬢様な役が似合いますね。パワーがすごすぎるため、他の人との絡みとなると浮いちゃうこともあるように思います。今までの回のサリバン先生は知りませんが、春に見た時は一人だけ違う世界の人な気がしちゃったもの。女優大竹しのぶが本領発揮できるのは「売り言葉」みたいな一人芝居なのかもしれません。なんて思ってたところに今回のエレクトラ。死ぬ気で当たって来んかーいてな感じでまたどれだけやってもおっけーな役で。いやいや岡田さんもいきなりすごい人のお相手をさせてもらうことになっちゃったね。とてもかないませんわ。
とりわけこの回は迫力満点だったような気がするんですが、それに合わせて共演者のテンションも上がる上がる。紗弥加ちゃんがますますすごくなってたー。お姉ちゃんに味方しそうになってしまう自分を必死で奮い立たせ、絶対に折れるもんかという気迫が感じられました。気合といえば、この回は皆やたらとつまづいたり階段踏み外したりしてましたなあ。大竹さんは階段一段分ずるっといって、その後は後ずさりするときにも足元確かめてるなーてのが分かってちょっとおかしかったです。紗弥加ちゃんはオレステスが帰ってきたのーってお知らせに来る時きやっぱり階段でめいっぱいすっころんでたし。岡田さんは前の場面でエレクトラがぶちまけたお供え物の果物を踏み潰しそうになり、ハッと足を引いてましたな。
でもってこの芝居で私が一番好きなママとの一騎打ち。波乃さんの時代劇風な台詞まわしに違和感を覚えられる方もいらっしゃるのかもしれませんが、そこはもう異種格闘技てな感じで。もう楽しくて楽しくてしょうがありません。

なんてやたらと楽しんでるうちにオレステス君の出番。初日もそうだったけどこの登場シーンの発声は最初のとは違っていい感じに力が抜けているからか、逆に使者を演じてるいわば劇中劇の状態で作ってるからかよく分かんないけどとてもいいですねえ。
えーと、今日のオレステスは初日以上にお姉ちゃん子。今回はかなり近い位置で二人の絡みを見ることが出来たんですが、何だか全然いやらしくないの。初日より絶対に濃厚になってるはずなのに。姉と弟というかほとんど母と息子(坊や)に近い感じ。
ちなみに初日の記憶間違ってました。クリュタイムネストラを殺しに行くときは一旦手をつないだ後抱き合ってキス、その後はオレステス一人で中へ入っていくんですね。エレクトラも後に続きますが。手をつないで出て行くのは最後の方でしたわ。大変失礼いたしました。その最後に二人が出て行くシーン。どっちから先に手を差し出したのかが見られない位置だったのが悔しいー。(私的には)肝心なとこなのに。
ちなみに、オレステスの親友ピュラデス君@台詞無しですが、あんなに緊張感の無い表情をしていていいのかい。どうせオレなんて見てないよなんて思ってるんじゃないでしょうねえ。とてもこの先あのエレクトラと結婚する男には見えないんですが。

カーテンコール。二人で退場する際、大竹さんの腰に手をかけ何となくリードしてみる岡田。おやおや姑息な技を。(おねーさん大喜び)

最後にまだこれからご覧になるご予定なのにこれを読まれてしまった皆様に私から呪いの言葉を(笑)。
コロスの人たちがねー、鷲マチの集団に見えるのーっ!おかげでどんなにシリアスな場面でもおかしくて仕方ないのーっ! ほほほ、皆苦しむがいいのよ。こんなことで笑っちゃってるのは私くらいだとは思いますがね。そもそも鷲尾さんのコロスじゃあ、どうせだったら可愛い男の子見たいわよねーくらい言って、オレステスの方ばっかり向いてそうですが(笑)。(03/09/15)

9月6日(土) 舞台初日

舞台はやはり通常のステージよりかなり内側に壁を作って狭くしてある模様。更に奥に行くほど狭まっていて台形の舞台。奥の壁に扉が一枚ある以外は出口なしの圧迫感。上下からの出入りも出来ないので必然的に客席通路が花道として活用されます。
三方の壁際に石柱を横たわらせたような台がある他は何もない空間。地べたは板(金属?)が打ち込んであるだけで、ところどころささくれてるのが砂地というか乾いた土地のイメージ。そして中央には血の染み。(これは映像なので開演後は消えます。)

舞台は故郷に帰ってきたオレステスのシーンから始まります。話には聞いていたけどいきなり客席通路に現れるオレステスにびっくり。私は2階席だったので角度的にはよく見えなかったんですけどね。初の発声は、お、岡田さんこんな声でしたっけ?てな感じ。太くて張りのある声。そして例の帽子を深くかぶって顔を伏せた状態からも発せられる存在感。何だか別人を見る思い。大事に大事に育てられた御曹司、またその期待に応えるべく見事に逞しく育った青年。うーわー。でも、舞台に上がってからがいけません。あのー岡田さん、何おっしゃってんだか全然分からないんですけど・・・・。ああ〜蜷川さんにも心配されてたってのに結局改善されてないのかよ。ちょっと目の前が暗くなりかけたところでオレステス退場、大竹エレクトラ登場。

えーもう、岡田さんがおっしゃってた通り、大竹さんが動くと舞台が変わりましたとも。すっかり。今までのことは無かったくらいに。コロスを相手にひたすら恨みつらみを言い立てまくるエレクトラ。全身から放射される力のそれはそれはすさまじいこと。ああもう役者が違いすぎます。
自分の生きる道を母親側か姉の方かどちらにも取りかねている妹クリュソテミス登場。エレクトラもオレステスも裸足だったのに対し、クリュソテミスは靴を履いています。山口紗弥加ちゃん、テレビ画面だと持て余し気味のテンションが舞台だとちょうどいいですね。エレクトラに負けてないもの。声も通るし。
ちなみにコロスって私はエレクトラの内面だと思っていたのですが、クリュソテミスが「皆さん」とか挨拶しているし、どういうものなんですかね。

クリュソテミスが去った後、いよいよ登場は母親クリュタイムネストラ。波乃さんというと私はどうしても「鬼平犯科帳」しか思い浮かばないのですが。しかも舞台鬼平犯科帳まで見に行ってるし。翻訳劇はほとんど経験がないとのことでしたが、なかなかのはまり役。酸いも甘いも乗り越えたわよべらんめえみたいな貫禄があります。実の娘と取っ組み合いのケンカみたいなんだもの。たのしー。(ほんとに取っ組み合いな訳ではありません。年の為。あ、でも近いものはあったかな。)
そこへ、現れた異国からの使者がオレステスが死んだと告げる。もちろんこの使者が冒頭の場面で出てきたオレステスの守役であることは観客は分かっているのですが、オレステスの死の場面のリアルなこと。ついつい岡田オレステスで想像してしまって身震いするくらい。こんな阿呆は私だけでしょうか。
この場面のクリュタイムネストラが見事でした。オレステスの死を聞いてまず突っ伏して泣く。あれ?エレクトラと同じ反応?息子に殺されるかもしれないと日々怯えつつも、死んだと聞いた瞬間のオレステスは息子以外の何者でもないんですね。そもそも夫を殺した理由として長女をいけにえに出させられたことを挙げたクリュタイムネストラ。その時点で気付かなきゃいけなかったんですわね。
息子の死を嘆きつつも、これで自分が生き延びられることの喜びも隠しきれない。相反する気持ちがねーものすごく分かりやすく納得のいくものなんですよ。すごいねえ。オレステス、こんな人を殺さなきゃならないんだよ。

生きる望みの全てを絶たれたエレクトラ。何だか見てる側までオレステスは死んじゃったんだっけと思い始める(笑)くらいの頃、ようやく姉の前に姿を見せるオレステス。あら?さっきとはまた声の感じが違うような気が。随分聞き取りやすくなったような。でもまだこっからがじれったいんです。オレステスは相手がエレクトラとは知らず、オレステスの遺骨を持ってきたと言ってしまう。自分の前で嘆き悲しむ目の前の女性が姉エレクトラだとようやく気付くオレステス。目の前の自分を見てってなあたりほとんど愛の告白ですな。とうとう出会うことが出来た姉弟。そらーもうこっちの気分も最高潮な中、濃厚な抱擁シーンが延々と。ただひたすら美しくも官能的な世界。これだから芝居ってすごいよなーと思う瞬間です。マントを脱ぎ捨てたりなんて行為がいちいち来るなーって感じです。

二人で母親の元へ向うシーン。奥の扉が大きく開き、その向こうに手をつないで消えていく様は「母親を殺す」という大罪を犯す決意と共に姉弟の一線も越えちゃったんじゃないかなーと思ってしまいました。私。
殺人の場面自体は描かれることなく、コロスの動きとクリュタイムネストラの悲鳴のみでコトは済まされる。半裸血まみれのオレステス。なのに何だか急に私にはオレステスが子供に見えました。どうしよう、やっちゃったよ、ねーちゃん、どーしよう?何言ってんのよまだもう一人いるのよ、しっかりなさい。てな感じ。違う?
最後にようやく登場する義父アイギストス。打ちひしがれるフリをするエレクトラの前でコロスの女を慰み物にしたり、一瞬で強烈な印象を与えてくれるのは原康義さん。つくづくすごい人たちに囲まれてますな、岡田さん。実際殺されるためだけの出番な訳ですが。自分の最期を悟り、静かに舞台を去るアイギストスとそれに続く二人。そしてやはり死の場面は描かれることなくコロスの舞踏で終り。

カーテンコール。大竹さんが見事におねーちゃんでした。ほら行くわよって感じで手をつないであげたり。あなたのファンでしょ、応えてあげなさいよって前に押し出したり。岡田さん可愛がられてんなー。いい時間を過ごせているのねと幸せな気分になれるカーテンコールでございました。


さて、岡田さんのファンになってようやく丸3年。コンサートでこそ生の岡田さんは何度も拝見してまいりましたが、演技する岡田をカメラのフィルター無しで見たのはもちろんこれが初めてです。これを見ろてな岡田さんからの挑戦状、確かに受け止めました。コクーンの会場を満たすだけの存在感、想像以上でした。立ち姿の美しさには心底惚れ惚れしました。
なんですがね、まだまだっす。岡田さん。やっぱねー、最初でコケるのは痛いわ。大竹さんが出てきてホッとしちゃったもの。舞台ですもの、言ってることが伝わってナンボというかまずそっからじゃないですかね。日経エンタで蜷川さんに言われてたのも、自分の芝居がそんなつまらないレベルで批評されるなんてまっぴらだってことだと思うのよね。再会シーンからの怒涛の展開で何となく騙されちゃう気もするけれど、それはオレステスが出てない間のエレクトラとクリュタイムネストラとのバトルやら何やらで土台が出来てたからなんですよね。観客も舞台も全く素の段階で最初にシーンを作らなきゃいけないにしては、かなり役不足。もちろんよくやってると思うんですが、岡田でなきゃーってなところまでは感じられなかった。私には。オレステスの親友ピュラデスは全く台詞を言わせてもらえない役なんですが、これは岡田の滑舌が悪すぎるので比較対照にされない為かくらいに勘ぐっちゃたよ。(そもそもしゃべっちゃいけないことになってる役なんだそうな)
最初のシーンはパンフレットの稽古場日誌の中にもあるようにまだまだ岡田さん悩んでそうですね。今日(7日)の公演にも入った友達によるとかなり改善は見られたってことなのでちょっとホッとしましたが。彼が努力の人なのは分かってるし。まだまだ試行錯誤を繰り返して欲しいと思います。
私が世に知らしめしたいこれぞ岡田准一ってのはまだまだこんなもんじゃないって信じてるからね。(03/09/07)

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